当たり前のことかもしれませんが、カウンセリングを利用したいと考える人は、ただ話をしにくるわけではなく、やはり最終的には今ある悩みの状態がなるべく効率よく解消されることを望んでやってきます。もちろんカウンセラーも話を聴くだけではなく、クライアントの状態が今よりも少しでも良くなり、新しいステップを踏めるために役立つ能力と技術があると信じてカウンセリングを行っています。
近頃は先人達の努力のかいがあり、カウンセリングという考え方が以前よりも身近に感じられ、書籍なども手に入りやすく、カウンセリングとはいったいどのようなものか知ってもらえることも多くなりました。けれども医者や、整体師の様に実際に現場でどのようなことが行われているかを知る機会というのはまだあまりありません。最初のハードルを乗り越えて実際にカウンセリングの予約を入れたら、そこではいったいどのようなことが行われるのでしょうか。カウンセラーの立場からになりますが、書いてみたいと思います。
初めてカウンセリングに来る方は、だいたいが少し緊張気味で、そして話さなければいけないことでいっぱいになっています。ソファーに座ってもらって、簡単にカウンセリング依頼書にサインをしてもらってから、カウンセラーが守らなければならない守秘義務の話を致します。そして第一回目のクライアントからの話が始まります。
カウンセリングは残念ながら魔法の杖ではありません。今まで悩みに悩んで友人や家族、知人に知恵を借りていろいろ試してきた事柄を、カウンセラーに1時間話をしたからといって夏の氷の様にみるみる融けていくということはほとんどありません。一回目は主にクライアントの話を聴くことで終始します。本当にこの一時間はあっという間に過ぎていきます。
もちろんクライアントもそのことは常識的にはわかっていますが、心情的にがっかりとすることが珍しくないようです。こんなことをしていて果たして意味があるのか?医者の様に具体的な対処法を教えてくれて、薬を飲む様にすっかりと悩みが無くなるわけではないのか?と。
このときカウンセラーはボーッとしてただクライアントの話を聴いているわけではありません。クライアントの一言一言に真剣に耳を傾け、様々な可能性について常に敏感になっている状態にあります。ただ経験と知識から、カウンセリングに来る内容というのはその様にアドバイスで簡単に解決できるものはほとんど無いということを知っているだけなのです。
だいたい1時間が経過する頃でしょうか。当カウンセリングルームでは多くの人に簡単な性格テストを行ってもらっています。そして一日目の話を聞いての今後の見立てについてカウンセラーから話をしています。このときに心療内科などにもかかっておくべきか・だいたい月に何度くらい来るのが望ましそうな内容で、予想でどのくらいかかりそうか(もちろんこれはカウンセリングが進んで行くにつれて長くなったり短くなったりする可能性があります)・料金のことについて・当カウンセリングルームで使われる技法等についても併せて話をしています。そして最終的にカウンセリング契約を結ぶかどうかの話を致します。
何度やっても一回目のカウンセリングは緊張します。ガイダンス的な要素も強く、即効性はほとんどありませんし、話そのものが深まっていくのもだいたいは二回目三回目を待たなくてはなりませんが、クライエントとカウンセラーの関係の大切なところがこの一回目にはかかっています。そして、クライアントとカウンセラーの間に良い関係が出来たなら、その後のカウンセリングは親密で、実り多いものになっていくでしょう。
身体のことであれ、心のことであれ、最終的に自分を癒せるのは自分だけです。カウンセラーはクライアントに寄り添って、あるいは杖として、あるいは今までの経験と知識からある程度の先を見通せる明かりとして、一緒に同じ道を歩いていく者です。変化や回復には時間がかかります。悩みが深ければ深いほど、時間も労力もやはりかかるでしょう。焦らず、そしてカウンセラーを信じられるよう、いろいろと疑問があったら聞いてもらいたいと思っています。
初回のカウンセリングは、勇気を出してこられる分だけクライアントの方も緊張しています。その緊張がほぐれて、ゆっくりと息がつけて、今までの心のおもりを少しでもカウンセラーにおろして、カウンセリングルームを訪れたときよりも、帰るときの足取りが少しでも軽くなっていれば、カウンセラーとしてこれほど嬉しいことはありません。