私たちは自分を知るために、他人を必要とします。自分の頭の中だけで感じていることを、知ったり疑ったりすることは案外難しいことです。他者に向かって話すことや表現することを通じて、それが自分にとってどのような意味であるのかを理解します。
自分を映す鏡が必要
自分のことは自分が一番よく知っていると思いがちではありますが、私たちは自分の顔を見るにも鏡がいりますよね。自分の考えている自分の顔と現実に鏡で見る自分の顔にはギャップがあります。毎朝鏡を見るたびにカウンセラーも「そういえばこんな顔だったな。ふむふむ」と考えるわけですね。考えてみると不思議なことです。子どもの頃から顔かたちは一貫して変わり続けているはずですが、鏡を見ると何となくこれが自分の顔なんだよなと感じることができます。
けれども時に鏡の中の自分の姿にはっとすることがあります。まじまじと、そうかこんな顔だったっけ、と思う時があるのですね。形のある自分の顔かたちですら、自分の頭の中で持っている自分の顔へのイメージとのずれに、驚きを感じることがあります。まして、形の見えない自分の「感情」や「考え」は他者に伝えずにいることで、現実とのギャップの大きいものに育ってしまうことがあります。
変わるためには自分を知ることが必要です。自分を知るというのは、自分にとって現実がどのように見えているのかを知ることです。また、現実を知るために自分がどのような「枠組み」を使っているのかを知ることです。自分の強い思いにとらわれている時ほど、その頭の中で駆けめぐっている思いを言葉にして他者に表現をすることが必要なのです。
肯定的関心を向けられた中で話をするということ
カウンセラーに自分の考えていることや感じていることを伝える。それは首尾一貫している必要はなく、前の話と今の話が矛盾をしていても問題はありません。論理的に正しい必要はないのですね。
私たちは相反する気持ちを同時に持つことができます。嫌われたくない、近くにいたいと願いながら、大切な人に暴言を吐いてしまったり、距離を広げるような態度をとったりすることができてしまいます。過食をしないことが自分にも良いことだとわかっているし、その後にものすごい後悔が来ると心の底から理解しつつ、同時に食べ過ぎないという選択を選ぶ自由を失っていることがあります。
言葉になる以前の思いや感覚をうまく理解できないと、大きな問題になることがあります。自分の思いを理解するためには、言葉にして誰かに伝える必要がありますけれども、親子や友人、同僚、といった普通の人間関係では、肯定的に受け止めることが難しい仕組みになっています。誰でも「批判されるかも」とか、「自分の言っていることは筋が通っていなくておかしいと思わるのでは?」という中では、素直に自分の思いを言葉にしていくことは難しいですよね。
カウンセラーの基本的なあり方ですが、様々な思いや矛盾する感情、そういったものを含めて、肯定的な関心を持ってクライエントの話を聞いていきます。そのように伝えることで、はじめて自分の思いを現実的に把握できるようになるのです。
伝えることで視野の外においておいたものの姿が見えてきます。たとえそれがどれほど見たくないものであったとしても、自分の思いを自分にも大切な人にも隠しながら生活することは、自分を苦しめていくことになるのです。言葉にして伝えることで、苦しみから一歩ずつ離れていくことができるのです。