最終更新日:2026年4月23日
執筆:公認心理師 佐藤康幸
近年、カウンセリングではソマティック(身体)の感覚を用いてこころの傷つきから回復しようという心理療法が多く見られるようになってきました。本ページでは、サトウカウンセリングルームでこれらの心理療法が使われるとき、どのように進行していくのか、また、どういうところに注意しながら進めているのかを解説していきます。
言葉だけでなく「からだ」からこころを癒すカウンセリングへ
これまでカウンセリングと言うと、言葉を用いてこころの傷から回復していこうというトークセラピーが中心でした。自分の思いを話すこと。認知療法で自動思考に自分で合理的に考えられるようになること。脳機能で考えてみると、前頭葉や言語機能のみを使っている状態とも捉えられます。
一方で、私達の生活においては体が大きな役割を果たしています。怖い思いをしたときに心臓がキュッとして体が縮こまったこと。リラックスしたときにふぅっと大きく息をしてこころが広がるような感覚。とてもつらい思いをしたときに、身体がまったく感じられなくなって、心と体がはなれたようなこと。機能的には、恐怖を司る扁桃体が過剰に働いたり、身体感覚を司る『島(とう)』の機能が抑えられたりします。これは脳の深い場所(脳幹など)が、生き延びるために懸命に反応している証拠なのです。そんな考え方がカウンセリングでも目立つようになってきました。
ソマティックアプローチの土台となる「安全」
ソマティックアプローチに共通するものは、カウンセリング場面での「安全」です。つらい記憶や体験、不安感や落ち込みに対処する際に、安全であることは大切なことです。安全がないところで、難しいことに挑戦はできないですよね。
そう、たとえばセッションが始まったときにこのようなことから入っていきます。
セッションが始まって最初の数分は、ソファにある触り心地の良いブランケットを手に取り、膝の上に置くことからはじめます。その触り心地、手の感触。膝に載せたブランケットの温かさ。その流れで足が床についている感覚。ソファに座っているやわらかさ、温かさ。今聞こえる音に徐々に導いていき、クライエントの呼吸がソファに座った瞬間より、深くゆっくりになっていることに気付いてもらいます。ふぅ。
**これは、専門用語で『リソース(自分を助ける資源)の構築』や『グラウンディング』と呼ばれるプロセスです。まずは『今の自分は、このソファの上で安全である』ということを、神経系に直接伝えていく。これが、その後の深い癒しを支える土台になります。」**
その後実際のセラピーでは、つらい体験や感覚を「少しずつ(タイトレーション)」、「振り子のように(ペンデュレーション)」安全な感覚と行き来しながら処理していきます。
小さな一歩を、安心の中で重ねていく
実際トラウマに向き合うことは勇気が必要です。こうしてカウンセリングについての文章を読んだりすることも、変えようとする勇気なんですよね。
セッション中、実際にカウンセラーが立って見せることもあります。一歩左に足を出して、またすぐに元の場所に戻る。また一歩左に足を出して、すぐに戻る。「新しい世界が安全で危険が少ない場所だというのは理屈ではすぐに分かります。けれども体はそうじゃないですよね。人間は今の場所が苦しくても、新しい場所って怖いんですよね。でもちょっと踏み出して戻ってみて、「あれ、新しい場所に立ってもイヤなことは起こらなかったな」そんな経験を少しずつ積み重ねることで、今の場所(トラウマの苦しみの世界)から新しい世界に移っていくプロセスを、カウンセラーと一緒に進めていきましょう。
そんなふうに、身体の感覚を通して、あなたのこころの安定を目指していきます。
クライエント(相談者)が勇気を持ってトラウマに触れる際に、カウンセラーがそこに関心を持って確かに隣りにいること(カウンセラーのプレゼンス)。トラウマの世界にいるときに、今の不安やつらさをもたらす行動は、つらい中で身につけてきた適応的な行動なのです。それを理解しながら、隣で一緒にいる。そして、体の感覚に気づくことから回復が始まる。ソマティックなアプローチには、そのような深い回復を安全にサポートをする力があります。
カウンセリングの核となるアプローチ
ソマティックアプローチを基盤とし、EMDR、BCT(ボディ・コネクト・セラピー)、BSP(ブレインスポッティング)を用いた身体志向の心理療法です。言葉による「物語」のループから離れ、神経系に直接働きかけることで、トラウマや強度のストレスからの「深く、早い」回復を支援します。
安全性とプロセスの特徴
・安心感の構築(リソース): ブランケットの触覚やグラウンディングを用い、身体が「今、ここ」の安全を実感することから始めます。
・タイトレーションとペンデュレーション: 刺激を微量に調整し、安全な感覚と行き来しながら進めるため、再トラウマ化のリスクを最小限に抑えた専門的な介入が可能です。
・適応的行動への理解: クライエントの症状を「生き延びるための適応的行動」として、セラピストのプレゼンス(確かな存在感)を通じて間主観的な癒しを促進します。
推薦する主な対象の方
・過去のトラウマや慢性的なストレスにより、自律神経系の調整が困難な方。
・従来のトークセラピーでは変化を感じにくかった方。
・安全性を最優先しながら、身体感覚を通じて根本的な回復を目指したい方。

